椎間板疾患(胸腰部領域)

<はじめに>

胸腰部の椎間板疾患とは、椎間板物質が脊髄神経の真下、その付近にヘルニアを起こした事によって、

神経に圧迫が加わった状態の事をいう。

これは犬において、突然始まる事もあれば、何年もかかって徐々に発生する慢性のこともある。

 

椎間板が変性する本当の原因は不明であるが、多くの動物では椎間板の成分が、やわらかくて柔軟なゲルの状態

から、硬い結晶状へと変化する事が知られている。

この硬い物質が脊髄をゆっくりと圧迫したり、急激に脊柱管内に入り込むことがある。

脱出を起こした椎間板が脊髄の真ん中あたり、つまり胸腰部である場合、前肢の神経は影響を受けないので、

前肢は正常なままである。

しかしながら後肢は様々な程度に影響を受ける。

 

もしあなたの犬に胸腰部の椎間板ヘルニアが起きたなら、その徴候は単に背中をすこし痛がるだけのこともあれば

、重篤なケースでは後肢が完全に麻痺して、後肢にどんな刺激を与えても全く感じなくなってしまう。

軟骨形成異常の犬種、例えばダックスやラサアプソやペキニーズのように軟骨の形成に障害をもつ品種では、

他の品種に比べてこの疾患を起こしやすい。

胸腰部の椎間板疾患は3〜7歳の動物に最も多く見られる。

 

<注意すべき点>

   ・背中の痛み。

   ・遊ぶのを嫌がる。

   ・触ったり、なぜたり、持ち上げようとすると声をあげる。

   ・階段を登るのを嫌がる。

   ・ぎこちなさ。

   ・千鳥足

   ・歩けない、あるいは麻痺

 

<診断>

胸腰部の椎間板疾患である事を確かめ、また同じような症状を起こす他の病気と区別するために、

診断テストが行われる。

完全な病歴を聴取し、一般的な身体検査をすることに加えて、あなたの獣医師は次のような検査を行うだろう。

   ・神経学的評価

なぜなら脊髄を圧迫してる椎間板物質が多いか少ないかによって、また脊髄が圧迫を受けている速度が速いか

遅いかによって、あなたの犬の示す症状が大きく変わってくるからである。

 

もしあなたの犬が普通に歩くことが出来て、背中の痛みだけがある場合、あなたの獣医師は背中を触って、

痛みの場所を特定するだろう。(そっと圧迫を加える事により)

 

もしあなたの犬が歩けるけれどもぎこちないというときは、あなたの獣医師は、後肢だけが影響を受けていて

前肢とか、頭部に異常がないことを確かめようとするだろう。

 

もしあなたの犬が歩けないとき、あなたの獣医師は後肢の足先をつねって、痛みを感じているかどうかを

調べるだろう。

そのとき、あなたの犬は反射反応(屈筋反射)によって、足先を引っ込めるかも知れない。

しかしながら、あなたの獣医師はそのときに、あなたの犬が鳴いたり、噛もうとするかどうかを見ようとしている。

というのは、もしそうした反応があれば、それは痛みを感じていることになるからである。

単に足を引っ込めるだけでは、あなたの犬が足に感覚があるとは限らないからである。

 

   ・脊髄のレントゲンによって、障害を受けた椎体の位置を特定することができる。

 

しかし、脊髄神経が圧迫を受けていると言うはっきりとした診断をするためには、脊柱管の中に造影剤をいれる、

ミエログラムという造影法が行われる。

可能であれば、CTスキャン法がミエログラフィーに代わる方法である。

 

<治療>

適切な治療法は臨床的な症状の重篤さによって決まる。

軽い症状の犬では薬物療法だけでよいが、より重篤な症状の場合、手術が必要になることもある。

胸腰部椎間板疾患では、次に述べる治療法のうちのいくつかが必要になる。

・医学的な治療法はまず、安静と、抗炎症剤の投与であり、通常それはステロイドの形で与えられる。

筋肉を弛緩させる薬物が用いられるのは、脊髄の筋肉の攣縮を和らげるためである。

・症状が重篤で、内科的療法に対して反応が見られないときには、外科的処置も考慮される。

これにはミエログラムやCTスキャンによって、椎間板の脱出が起きている正確な部位を特定する事が必要である。

脊柱管に「窓」を開けるのは、脊髄神経を圧迫から開放するとともに、椎間板物質を取り除くための操作を、

しやすくする為である。

 

<家庭での看護>

内科的処置を選択した場合、最低でも四週間の厳密なケージレストが必要となる。

この間の休養によって、椎間板物質の上に、瘢痕が形成される。もし早く運動をさせると、椎間板の他の部分が

ヘルニアを起こしてしまい、よけいに悪くなる可能性がある。

一日に何回かは排便や排尿のために外へ連れ出すのは構わないが、庭を自由に走らせてはいけない。

椎間板ヘルニアの早期の再発のほとんどの理由は、犬を閉じ込めるのに失敗したと言う事である。

 

もし自分で排尿ができないときは、膀胱を空にするよう手助けをする必要がある。

膀胱がいっぱいになりすぎると、尿は自然にあふれ出るが、その結果、膀胱壁が伸びきってしまうと、

仮に脊髄の状態が良くなっても、自分で排尿できなくなる可能性がある。

膀胱を空にするという操作はふつう1日3〜4回必要である。もし、依然として排尿困難を呈しているときに退院

する場合、どうやって膀胱を空にするかを獣医師に実演してしてもらってください。(いわゆる膀胱しぼり)

 

もしあなたの犬が歩けなければ、筋肉を強くするための理学療法が必要である。

獣医師や病院のスタッフにどのようにするか尋ねてください。

 

回復には時間がかかることを肝に銘じて置いてください。

病態の激しさに応じて、回復にまでどれくらい時間がかかるかを、あなたの獣医師は予想するでしょう。

ほとんどの場合、手術から日が浅ければ、あなたの犬は歩こうとしないでしょう。

人間の場合と同じように、脊髄疾患の回復には時間がかかるものです。辛抱強く、見守ってください。

あなたの犬に、少しでも悪くなっているという徴候があれば、決して見逃してはいけません。

もしあなたの犬の状態が少しでも悪化していれば、直ちに獣医師に連絡してください。

もしあなたの犬が背骨の病気に罹患しやすい素因を持っているのなら、椎間板疾患の初期症状を知っておく必要

があります。

もしあなたの犬が神経的な問題を示すような何らかの徴候を見せているのなら、出来るだけ早く、獣医師の助言を

求めるようにして下さい。

あなたの犬を太らせてはいけません。肥満によっていわゆる「胴の長い犬」の脊髄の真ん中あたりにかかるストレスが

増す事になるからです。